同じ厚さの断熱材だから大丈夫が危ない!省エネ基準適合後の材料変更で見落としやすいこと

2026年10月30日 10:50
カテゴリ: 一級建築士コラム

「代わりの断熱材で進めてください」その一言に潜む問題




ある木造住宅の現場で、外壁の断熱工事を目前にして、予定していた断熱材が納期に間に合わないことが分かりました。

現場監督は建材業者に代替品を確認します。

「同じ厚さの商品なら手配できます」

工事を止めたくない現場監督は、代替品を使用する方向で検討を始めました。

ところが、設計担当者に確認すると、意外な返答がありました。

「その断熱材、申請時の省エネ計画と性能が違いませんか?」

現場監督は戸惑います。

「厚さは同じですよ。そんなに問題になりますか?」

実は、ここに見落としやすい問題があります。

断熱材は、同じ厚さだからといって、同じ断熱性能になるとは限りません。

そして2025年4月以降、省エネ基準への適合が原則として新築住宅にも義務付けられたことで、材料の変更は単なる現場の調達判断では済まない場合があります。

※この導入は、制度と実務上の判断を説明するための架空の事例です。




ある木造住宅の現場で、外壁の断熱工事を目前にして、予定していた断熱材が納期に間に合わないことが分かりました




現場監督は建材業者に代替品を確認します。

「同じ厚さの商品なら手配できます」

工事を止めたくない現場監督は、代替品を使用する方向で検討を始めました。

ところが、設計担当者に確認すると、意外な返答がありました。

「その断熱材、申請時の省エネ計画と性能が違いませんか?」

現場監督は戸惑います。

「厚さは同じですよ。そんなに問題になりますか?」

実は、ここに見落としやすい問題があります。

断熱材は、同じ厚さだからといって、同じ断熱性能になるとは限りません。

そして2025年4月以降、省エネ基準への適合が原則として新築住宅にも義務付けられたことで、材料の変更は単なる現場の調達判断では済まない場合があります。

※この導入は、制度と実務上の判断を説明するための架空の事例です。

断熱材の性能を比較する際に重要なのが、熱伝導率と厚さです。

材料単体の熱抵抗は、次の式で求められます。

熱抵抗 R = 厚さ d ÷ 熱伝導率 λ

例えば、厚さ100mmの断熱材を二つ比較してみましょう。

A材の熱伝導率を0.036W/(m・K)、B材を0.040W/(m・K)と仮定します。

すると、熱抵抗は次のようになります。

A材:0.100 ÷ 0.036 = 約2.78㎡・K/W

B材:0.100 ÷ 0.040 = 2.50㎡・K/W

厚さは同じ100mmでも、材料単体の熱抵抗は異なります。

これは比較のための仮定値であり、特定の商品を示すものではありません。また、この差がそのまま住宅全体の外皮平均熱貫流率(UA値)の変化率になるわけでもありません。

実際には、断熱する部位、工法、材料の熱伝導率、厚さ、その他の構成条件を確認する必要があります。

つまり、建材業者から「同じ厚さの商品です」と説明されたとしても、それだけでは代替品として採用できるか判断できないのです。




2025年4月から、何が変わったのか




2025年4月1日以降に工事に着手する新築・増改築では、原則として省エネ基準への適合が義務付けられました。

対象外となる建築物などの例外はありますが、一般的な新築住宅もこの制度の対象となります。

さらに、省エネ基準への適合は、建築確認や完了検査とも関係します。

ここで、実務者が区別しておきたいことがあります。

省エネ基準への適合義務と、省エネ適合性判定(省エネ適判)の手続きは同じではありません。

住宅で仕様基準または誘導仕様基準によって適合を確認する場合など、省エネ適判の手続きを省略できるケースがあります。

しかし、適判を省略できるからといって、省エネ基準への適合義務そのものがなくなるわけではありません。

施工した材料や設備が、採用した評価方法に基づく基準を満たしていることが必要です。

したがって、断熱材を変更するときには、まずその建物がどの評価方法で省エネ基準への適合を確認しているのかを把握する必要があります。




「性能が良くなる変更なら、手続きは不要」なのか




ここも注意したいところです。

省エネ適判を受けた建築物では、適合判定後に計画を変更する場合、その内容に応じて手続きが変わります。

軽微な変更として扱えるものには、一般に次のような区分があります。

ルートA: 省エネ性能が向上する変更、または性能に影響しないことが明らかな変更。

ルートB: 一定の範囲内で省エネ性能が低下する変更。

ルートC: 再計算によって基準への適合が明らかな変更。

ただし、どの変更でも自由にこれらの区分を選べるわけではありません。建築物の用途、評価方法、変更内容などに応じて、該当性を確認する必要があります。

また、軽微な変更に該当する場合でも、必要な説明書や資料がなくなるわけではありません。

例えば、ルートCに該当する場合には、軽微変更該当証明書が必要となります。

軽微な変更に該当しない場合には、変更に係る省エネ適判が必要となります。

ここで重要なのは、「性能が上がるから、そのまま施工してよい」と現場だけで判断しないことです。

設計者、工事監理者、施工会社の間で変更内容を共有し、必要な確認や手続きを整理してから採用することが大切です。





完了検査では、図面と実際の施工が確認される




工事が完成すれば、それで終わりではありません。

省エネ基準への適合が義務付けられ、完了検査の対象となる建築物では、施工内容が省エネ基準に適合しているかも確認されます。

実際に、一般財団法人大阪建築防災センターは、2025年4月の制度改正に伴い、確認済証交付後に省エネ計画の変更があった場合には、変更内容に応じた書類が必要になると案内しています。

同センターは、ルートAに該当する変更であっても軽微な変更説明書が必要となることを説明し、変更がある場合には事前協議を求めています。

これは、工務店にとって見逃せない実務上の注意点です。

断熱材を施工してから変更内容を整理するのではなく、施工前に確認する。

そして、断熱材が壁や天井の中に隠れる前に、必要な施工記録を残しておく。

材料の製品名、性能資料、施工箇所、厚さ、施工状況などを確認できるようにしておくことは、工事監理や完了検査への対応にも役立ちます。




工務店が材料変更前に確認したいこと




では、実際に断熱材の代替品を検討する場合、どのように進めればよいのでしょうか。

まず、元の設計で採用している断熱材の仕様を確認します。

メーカー名や商品名だけでなく、熱伝導率、厚さ、施工部位、施工方法を確認します。

次に、代替品のメーカー資料を入手し、同じ項目を比較します。

そのうえで、採用している省エネ評価方法に照らし、変更後も基準に適合するかを検討します。

必要であれば、計算や仕様表を修正します。

省エネ適判を受けている案件では、変更が軽微な変更に該当するか、変更適判が必要かを確認します。

さらに、建築確認の計画変更の要否についても、変更内容に応じて別途確認が必要です。

ここまで整理してから、変更後の材料を正式に採用し、現場へ指示します。

工事中に使用する図面や仕様書が古いままにならないよう、更新した資料を関係者へ共有することも欠かせません。

材料の納期に追われる現場ほど、この確認を省略したくなるかもしれません。

しかし、施工後に不整合が判明すれば、資料の再作成や追加確認などが必要となり、かえって工程に影響する可能性があります。




設計図書と現場をつなぐのは、誰の仕事なのか




私は、大工として現場に携わり、建築士として設計にも関わってきた経験から、こうした問題は設計側と施工側の情報がつながっているかどうかに関係すると考えています。

設計者は、省エネ基準への適合を確認して図面や仕様を作成します。

施工会社は、その設計図書に基づいて材料を手配し、工事を進めます。

工事監理者は、工事が設計図書どおりに実施されているかを確認する役割を担います。

それぞれの役割は異なりますが、材料変更の情報が途中で止まってしまえば、設計図書と実際の施工に食い違いが生じる可能性があります。

だからこそ、材料変更を単なる発注上の問題として扱わず、設計内容に影響する変更なのかを確認する仕組みが必要です。

特に、断熱材や窓、空調設備、給湯設備などは、省エネ性能の評価に関係する場合があります。

建築計画の初期段階で適合を確認するだけでなく、施工段階での変更管理まで考えておくことが重要なのです。




「同等品」という言葉だけで判断しない




今回の架空事例では、予定していた断熱材が納期に間に合わず、同じ厚さの代替品を検討していました。

しかし、本当に確認すべきだったのは、厚さが同じかどうかだけではありません。

その材料が、設計で求めた性能を満たしているのか。

変更によって省エネ計画に影響があるのか。

必要な書類や手続きは何か。

そして、その変更内容が現場と工事監理者に正しく共有されているのか。

こうした確認を一つずつ行うことが、結果として工事の手戻りを防ぐことにつながります。

建築士や工務店が抱える問題は、必ずしも建物全体の設計をやり直さなければ解決できないものばかりではありません。

既存の省エネ計算書、仕様書、図面、変更予定の材料資料を照合することで、どこに問題があるのか、次に何を確認すべきかを整理できる場合もあります。

建築の省エネ性能は、計算書の中だけで成立するものではありません。設計した性能を、実際の建物に正しく反映してこそ意味があります。

材料を一つ変更するときにも、その視点を忘れないことが、これからの建築実務には求められているのではないでしょうか。




参考資料




国土交通省「建築物省エネ法のページ」

国土交通省「建築物省エネ法 最新の法令・様式」

総社市「建築物省エネ法」計画変更・軽微な変更について

葛飾区「省エネ基準に係る完了検査について」

一般財団法人大阪建築防災センター「完了検査における省エネ基準適合について」

カネカケンテック「省エネ基準・厚さ早見表」

記事一覧を見る