ESTIMATE REVIEW AND CONSTRUCTION LAW
リフォームや改修工事の見積書を確認すると、現在でも「解体工事一式」「木工事一式」「内装工事一式」など、金額だけが記載され、数量や単価の分からないものが少なくありません。
計画初期の概算見積りであれば、工事内容が固まっていないため、一式表示になることには一定の理由があります。しかし、工事内容や金額を確定して契約する段階になっても、主要な工事が一式のままでは、発注者はその金額がどのように算出されたのかを確認できません。
2025年12月12日には改正建設業法が全面施行され、建設工事の見積書について、材料費や労務費などの内訳を明示する方向がこれまで以上に明確になりました。
それにもかかわらず、なぜ現在も「工事一式」だけの見積書が使われているのでしょうか。
一式表記があることだけで施工業者の良し悪しを決めることはできません。しかし、契約前に内訳を求めたとき、どのような説明や資料を出すかは、その業者に良識と説明責任があるかを見極める一つの判断基準になります。
最初に整理しておきたいのは、今回の法改正によって、見積書で「一式」という単位を使うこと自体が禁止されたわけではないという点です。
例えば、養生、完成時清掃、少量の運搬、細かな付帯作業など、細分化する実益が乏しい項目では、一式表示が使われることがあります。また、見積書本体には「木工事一式」と表示し、別紙の明細書で材料、数量、単価などを示す方法もあります。
問題になるのは、一式という文字ではありません。
問題なのは、主要な工事まで一式でまとめられ、その工事に何が含まれているのか、金額の算出根拠が何なのかを発注者が確認できないことです。
例えば、次のような記載だけでは、見積りの妥当性を判断できません。
内装改修工事 一式 3,500,000円
この一行だけでは、少なくとも次の内容が分かりません。
これでは、金額が高いのか安いのかを判断する以前に、何に対する見積りなのかが明確になっていません。
REVISED CONSTRUCTION BUSINESS ACT
改正建設業法第20条では、建設業者は建設工事の請負契約を締結する際、工事内容に応じて、工事の種別ごとの費用内訳などを記載した「材料費等記載見積書」を作成するよう努めなければならないとされています。
特に内訳明示の対象となるのは、次の費用です。
そのほか、施工に必要な経費の内訳や、工程ごとの作業及び準備に必要な日数についても、見積書に記載することが求められています。
この取扱いは、公共工事だけのものではありません。民間工事を含め、発注者と元請業者、元請業者と下請業者、下請業者同士の取引も対象になります。
ただし、民間工事における材料費等記載見積書の作成は、基本的には努力義務です。そのため、「一式表記のある見積書はすべて違法」と表現するのは正確ではありません。
一方で、注文者が材料費等記載見積書を請求した場合、建設業者は請負契約が成立するまでに、その見積書を交付しなければならないとされています。
つまり、発注者は「一式だから仕方がない」と、そのまま受け入れる必要はありません。契約前であれば、工事内容と金額の根拠が分かる内訳書の提出を求めることができます。
法改正後も一式見積りが使われている背景には、いくつかの事情が考えられます。
計画初期で図面や仕様が決まっていなければ、正確な数量を算出できないことがあります。その段階で提示される概算見積りが一式や坪単価になることには、一定の合理性があります。
しかし、契約前の最終見積りまで同じ状態でよいわけではありません。
工事内容を確定し、請負金額を決めて契約するのであれば、少なくとも「何を、どの範囲で、どのような仕様で施工する金額なのか」を発注者が確認できる必要があります。
一式表示を使った理由よりも、契約前になっても内訳を示さない理由の方が重要です。
PRELIMINARY AND FINAL ESTIMATE
一式見積りを確認するときは、それがどの段階で作成されたものなのかを区別する必要があります。
計画初期は、図面、使用材料、設備機器、施工範囲などが確定していないことがあります。そのため、過去の工事実績、床面積、坪単価などを基に概算金額を示すことがあります。
この段階の一式見積りは、予算の方向性を確認する資料です。原則として、そのまま工事契約の根拠にするものではありません。
契約前には、図面や仕様を基に、施工範囲、数量、単価、使用材料などを確認できる見積書が必要です。
ところが、最終見積りでも主要工事が一式のままでは、発注者は次の事項を確認できません。
同じ「内装工事一式」でも、材料の品質や施工範囲が違えば金額は大きく変わります。総額だけを比べても、同じ条件の見積りを比較しているとは限りません。
CONTRACTOR ACCOUNTABILITY
一式表記があるだけで、良識のない施工業者と判断することはできません。
見るべきなのは、発注者が内訳や施工範囲について質問したときの対応です。
良識と説明責任のある施工業者であれば、一般的に次のような対応が考えられます。
反対に、次のような対応が重なる場合は、契約を急がず、見積内容をあらためて確認する必要があります。
法改正後も契約用見積書を「工事一式」のまま提出し、内訳を求めても説明しないのであれば、単に見積書の作り方が古いという問題だけではありません。
発注者が契約内容を確認できる資料を出す意思があるか、施工業者が説明責任をどのように考えているかを見極める必要があります。
内訳書を出すかどうか、また内訳を出せない部分について合理的に説明できるかどうかは、金額の妥当性だけでなく、良識ある施工業者かを判断する一つの基準になります。
主要工事が一式表示になっている場合は、契約前に次の資料や説明を求めます。
すべての項目を細かく分解すればよいというものでもありません。現場の状況により数量を確定できない工事や、解体後でなければ判断できない工事もあります。
その場合でも、「現時点で何が分かっているのか」「何が未確定なのか」「未確定部分をどのように精算するのか」を契約前に説明することは可能です。
「開けてみなければ分からない」という説明だけで終わらせず、想定される追加工事の内容や判断方法まで確認しておくことが重要です。
ESTIMATE REVIEW
一式表示が少なく、項目数の多い見積書であっても、それだけで適正な見積りとは判断できません。
数量が実際の施工範囲より多く計上されていることもあれば、同じ工事が別の項目と重複していることもあります。反対に、契約時の金額を安く見せるため、必要な工事が見積りから外されている場合もあります。
見積り精査では、項目の細かさだけでなく、少なくとも次の内容を確認する必要があります。
一式表示をなくすことは、見積書を確認するための入口にすぎません。最終的には、図面、現況、仕様、数量、単価及び施工方法との整合性を確認する必要があります。
今回の法改正によって、一式表記そのものが全面的に禁止されたわけではありません。
しかし、材料費や労務費などの内訳を明示する方向が明確に示された後も、契約前の見積書が主要工事まで一式のままで、発注者が内訳を求めても十分な説明がないのであれば、慎重に判断する必要があります。
重要なのは、一式という文字の有無ではありません。
発注者が工事内容と金額の根拠を確認できるか、施工業者がその確認に必要な資料と説明を出す姿勢を持っているかという点です。
見積書の内訳を示すことは、単に金額を細かく見せるためではありません。工事の範囲を明確にし、契約後の認識違いや追加工事を防ぐためのものです。
内訳を求めたときの施工業者の対応は、その業者に良識と説明責任があるかを見極める一つの判断基準になります。
工事見積書に「一式」と記載された項目が多く、金額が適正なのか、どこまで工事に含まれているのか判断できない場合は、契約前の確認が重要です。
大工のおっちゃん工房では、現場経験を持つ一級建築士が、見積書の数量、単価、仕様及び施工範囲を確認し、重複計上、不足項目、見積除外項目、追加工事につながる注意点を整理します。
内訳書がない場合には、現在の資料で確認できる範囲と、施工業者へ追加提出を求めるべき資料を整理することも可能です。
工事契約を結んでからではなく、見積りの段階で内容を確認しておくことが、不要な追加費用や契約後のトラブルを防ぐことにつながります。