建築業界の「2025年の崖」:4号特例の縮小と住宅改修の全貌

2025年12月22日 20:38

〜制度の正体から、コスト増、DIYの限界までを徹底解説〜




2025年4月、日本の建築基準法は戦後最大とも言われる大改正を迎えました。その中心にあるのが「4号特例」の

事実上の廃止(縮小)です。この改正は、これから家を建てる人だけでなく、中古住宅を購入してリフォームしようとす

る人、DIYを楽しみたい人すべてに重い影響を及ぼします。



本記事では、この制度がなぜ変わり、私たちの家づくりにどのような具体的な変化をもたらすのか、その全貌を詳細に解

説します。




1. 「4号特例」とは一体何だったのか?




これまで、一般的な木造2階建て住宅(延床面積500㎡以下など)は、建築基準法上の「4号建築物」に分類されて

きました。 この4号建築物に対して認められていたのが、「4号特例」というルールです。



特例の内容: 建築士が設計した建物であれば、建築確認申請の際に「構造に関する書類(壁量計算書など)」の提出が

省略され、審査も免除されるというものです。



これまでの実態: 1980年代の建設ラッシュ時に「審査側のパンクを防ぎ、スピード着工を優先する」ために作られ

ました。しかし、書類を提出しなくて良いため、実際には法律に基づいた強度計算を行わず、設計士の「経験と勘」

だけで設計された「根拠不明な家」が数多く建ってしまうブラックボックス化を招いていました。



2. なぜ2025年に「厳格化」されたのか?(背景)




この長年の「慣習」にメスが入った背景には、現代の住宅事情の変化があります。



① 建物の「重量化」による耐震リスク


現代の家は、高い断熱性能を確保するための厚い断熱材や重い3重サッシ、さらに屋根に載る太陽光パネルなどにより、昭

和・平成初期の家よりもはるかに重くなっています。 昔の経験則による「これくらい柱があれば大丈夫」という感覚で

は、地震時に家を支えきれないリスクが高まっていたのです。



② 省エネ基準の適合義務化(2025年4月〜)


カーボンニュートラル実現のため、2025年4月からすべての新築住宅に「省エネ基準適合」が義務付けられました。省エ

ネ性能を審査するには、断熱材の厚みや窓の性能など、詳細な図面審査が必要です。「省エネは厳しく審査するのに、命

を守る構造の審査を省くのはおかしい」という整合性をとるために、特例の縮小が決定しました。



3. 改正で「どうなったのか?」:新区分と審査の開始




2025年4月以降、従来の「4号建築物」という区分は消滅し、新たに「新2号建築物」へと再編されました。



全棟審査の開始:

 2階建て以上の木造住宅や、一定規模以上の平屋などはすべて、構造図面・構造計算書の提出が義務化されました。



審査期間の長期化:

審査機関も膨大な書類をチェックする必要があるため、これまで数日で降りていた「確認済証」が、1〜2ヶ月待ちという

状況が発生しています。これが、住宅ローンや補助金のスケジュールを狂わせる「2025年の崖」の一要因となっていま

す。




4. 【具体例】価格はいくら上がるのか?



この法改正により、建築・リフォームのコストは確実かつ大幅に上昇します。

項目改正前(〜2025.3)改正後(2025.4〜)
対象の区分4号建築物新2号建築物(2階建て以上等)
構造図面の提出省略可能(4号特例)原則、提出必須
構造審査なしあり(全棟審査)
確認済証の発行比較的早い長期化(1〜2ヶ月待ちも)

「今までは無料でやってくれていた(ように見えた)計算」が、明確なコストとして計上されるようになります。

5. リフォームの際の「致命的な」注意点




今回の改正で、最も大きな落とし穴となるのが中古住宅の改修です。


「再建築不可物件」のリフォーム危機


接道義務を満たしていないなどの古い家は、これまで「4号特例」を利用して、確認申請を出さずに(構造審査を受けず

に)大規模なフルリフォームを行ってきました。 しかし今後は、大規模な修繕(柱・床・梁の半分以上に触れる工事)に

は確認申請が必須となります。一度申請を出すと「今の最新の法律」をクリアしなければならないため、現行法を満たせ

ない古い家では、大規模なリノベーションが事実上不可能になるケースが出てきています。




6. DIYは果たして可能なのか?(新ルールとリスク)




「自分の家だから自由に直せる」という考えは、2025年以降、大きな法的リスクを伴うようになります。


⭕️ 可能なDIY(確認申請が不要な範囲)

    ・壁紙の貼り替え、床の重ね貼り(クッションフロア等)。

    ・キッチンやトイレなどの設備交換(配管位置を変えない場合)。

    ・構造に影響しない間仕切り壁の撤去。

    ・庭のウッドデッキ作り。



❌ 危険・困難なDIY(確認申請が必要になる場合あり)

    ・床の全面張り替え: 床面積の半分以上の下地(合板など)を剥がす場合。

    ・構造に関わる修繕: 腐った柱を交換したり、梁を補強したりする作業。

    ・屋根の葺き替え: 重さが変わるような屋根材への変更。


これらを無届けで行うと、その家は「違反建築物」となります。

将来、その家を売却したくても「買い手が住宅ローンを組めない家」として扱われ、資産価値が暴落したり、

火災保険の支払いに支障が出たりする恐れがあります。



結論:2025年以降の住まいづくり




4号特例の廃止は、日本の住宅から「あいまいな安全」を排除するための大きな一歩です。しかし、その代償として私たちは

「コスト増」「工期の長期化」「リフォームの制約」という現実に向き合う必要があります。



これからの時代、安易に「安く、早く、自分で」を優先させるのではなく、「法改正に精通したプロに構造の安全を正

しく担保してもらう」ことが、家族の命と大切な資産価値を守る唯一の手段となるでしょう。



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