2025 年を境に、宿泊業の流れは静かに、しかし確実に変わりつつあります。
予約件数やインバウンドの回復だけでは測れない、「旅の目的」そのものの変化が起きているからです。
私は建築・宿泊施設のコンサルとして、多くの宿主や施工店から相談を受けてきました。
また、独自に収集した訪日客アンケートでも、はっきりとした傾向が出ています。
結論を先に言えば、
2026 年以降の旅館業は “世界観に惹かれて泊まる宿” が勝ち、和モダンを並べただけの宿は確実に埋没します。
なぜそうなるのか。
その理由を、現場で見た事実とアンケート結果から紐解いていきます。
旅館・民泊の相談で最も多いのが、
「和モダン」「畳」「障子」「木の温かみ」を押し出したいという声です。
しかし、アンケート結果は真逆です。
海外客(特に欧州)は、
・本場で食べる日本食(寿司・刺身・ラーメン・餃子)
・本物のゲーム・アニメ・フィギュア文化
・漫画の中に出てくる景色・路地・建物
・シティポップの世界観そのもの
これらを “直接体験しに来ている” のです。
つまり、
日本らしさ=和モダン ではない。
宿側がどれだけ頑張って「和」を演出しても、
海外客の興味とズレていれば意味がありません。
団体観光は減り、個人旅行が圧倒的に増えました。
しかも、リピーターほど 価格では動かない。
なぜか?
旅の目的が、
「行きたい場所」
「体験したい世界観」
に移っているからです。
宿は “拠点” ではなく、
作品の一部として泊まる場所 に変わっています。
そして、欧州からの訪日客はこの傾向が特に強い。
良い“物語”を提供する宿に、人は戻ってくるのです。
最近の旅行者は、同じ宿に連泊するより、
興味のあるスポットや体験ごとに宿を変える。
団体旅行でも、現地ではバラバラに動き、
それぞれが “自分の旅” をしている。
つまり、宿に求められるのは
便利さでも広さでもなく、「1泊で記憶に残る何か」 です。
ゲーム・アニメ・漫画・和風・ファンタジー……
どんな世界観でも、
白い空間こそ最高の舞台装置になる。
プロジェクションマッピングの世界観
白い壁、白い天井、大理石調の白い床。
これさえあれば、あとから
・城
・神社
・夕暮れの街並み
・石垣の夜空
・雪景色
・森林の奥行き
・未来都市
どんな“推しの世界観”でも表現できる。
建築は箱でしかない。
価値はその箱に宿る物語で決まる。
この発想を理解している宿は、2026 年以降必ず伸びます。
結論はひとつ。
自分の宿を「白い舞台」に整え、
そのあとにクリエイティブに思考する事
世界観は建築ではなく、演出側が決める時代です。
宿主がやるべきは、
“余白をつくること”。
そして、余白は必ず人を惹きつける。
お化け屋敷の看板に人が吸い寄せられるのと同じです。
人には、“見たいものを見る心理” がある。
宿もまた、それを利用すべきです。
和モダンは、既に飽和しています。
価格で勝負する時代は終わりました。
これから勝つ宿は、
・世界観をつくる余白を持ち
・推し体験を設計し
・リピーターの “感情” を生む宿
です。
建築は、ただの箱。
その箱に“何を宿すか”が、宿泊業の未来を分けます。