【後編】無人チェックインを導入する前に、建物側で必ず押さえておきたいこと

2025年11月19日 23:01
カテゴリ: 最新情報





前編では、2025年の旅館業法改正について、

厚生労働省の公表資料の内容をもとに、



  ・フロント常駐要件が見直されること

  ・本人確認の方法が“録画+照合”へ広がること

  ・無人チェックインが増えている背景

  ・「設備だけでは許可が取れない」という誤解


この4つを中心に整理しました。



後編では、これらを踏まえたうえで、

実際に無人運営で許可を取得するために必要な“建物のつくり方” を、

できるだけわかりやすくまとめていきます。




■ 無人チェックインは「建物の構造」で合否が決まる




無人化の流れは、

行政側としては「選択肢を増やす」目的で整備されています。



しかし、厚生労働省のガイドラインを見る限り、

安全性と防犯に関しては

むしろ以前より厳格です。



特に重要視されているのは次の3点です。




● ① 宿泊者以外が入れない明確な境界

建物内に

「宿泊者専用エリア」

を設け、その境界が明確であること。


ここが曖昧だと、

建築用途が住宅や店舗と混在している場合に

必ず差し戻しになります。



● ② 入退室の管理方法

スマートロックの暗証番号管理、

カードキーの発行、

またはQR認証など。



厚生労働省は「方法は問わない」としていますが、

“誰がいつ入ったか”を記録し管理すること

が必須になっています。



● ③ カメラによる録画

自治体によって運用は異なりますが、

多くの自治体では無人化の場合、

録画の有無と保存方法 を重視しています。



特に、

「鍵の受け渡しスペース」と

「宿泊者専用エリアの出入口」

この2箇所はほぼ必須とされています。




■ 鍵の受け渡し構造が“許可の分岐点”




これまで多くの宿泊施設の計画に関わった中で、

許可がスムーズに進む物件と、

何度も差し戻される物件には

大きな違いがありました。



その違いは、非常にシンプルです。

鍵の受け渡しが“外部者が入れない構造”になっているかどうか。

これは監督官庁がもっとも重視している部分です。

暗証番号による入室も認められていますが、



  ・番号の通知方法

  ・変更のタイミング

  ・どこを通って専用エリアに入るのか

  ・誰でも通れる動線が混ざっていないか

これらを必ずチェックされます。



玄関の配置次第で、

構造的にどうしても許可できない物件 もあります。



■ 自治体が“必ず見ている”ポイント




各自治体の旅館業担当(保健所)からの意見や、

行政書士会の情報共有の中では、

次の項目が審査で特に見られると明言されています。




● ① 宿泊者以外が入れない入口になっているか


混在用途の建物ではここが重要です。


戸建ての場合は比較的つくりやすいものの、

長屋・共同住宅・複合用途建物では

動線の整理が不可避になります。


● ② 録画カメラは“死角”がないか


自治体担当者は

「見える範囲ではなく“映る範囲”で考えるように」

と指導しています。


特に出入口周辺は

「宿泊者以外が映らないように設計する」

必要があります。


● ③ ゴミ・騒音などの周辺トラブル対策


無人運営では、苦情対応が遅れる傾向があります。


そのため自治体は

周辺環境への配慮が具体的にされているか

を重視します。



例:

・ゴミ置場は外部者が触れない位置か

・深夜の出入りの音が響かないか

・近隣との距離は十分か



● ④ 緊急時の駆け付け体制


東京都北区や名古屋市など、

“10分以内の駆け付け” を条例で明記している自治体もあります。



無人化にするなら

駆け付け責任者の動線や距離まで考慮する必要があります。




■ 無人化を成功させる“配置と動線”のつくり方




ここからは、

これまでの現場経験の中で

「許可が通りやすい構造」

として共通していたポイントを整理します。



● ① 玄関の位置づけがすべてを左右する

玄関で

・鍵の受け渡し

・録画

・宿泊者専用エリアの入口

が一度に成立する構成が理想形です。



玄関から客室までの動線が自然であるほど、

許可はスムーズになります。



● ② 管理動線を“裏側”にまとめる

清掃・ゴミ・補充などの作業動線を

宿泊者と分けることができれば、

トラブルが起きにくくなります。


特に用途変更物件では

“既存の間取りをどう活かすか”

が腕の見せどころです。



● ③ 部屋数よりも“安全性の確保”が優先

行政の審査は、

収容人数よりも安全性を重視します。


  ・逃げやすさ

  ・階段の幅

  ・出入口の位置

  ・消化器や誘導灯の配置



これらが整っていれば、

小規模でも十分競争力のある施設になります。




■ 無人チェックイン導入前のチェックリスト




最後に、計画段階で必ず確認していただきたい項目です。


※これは行政書士団体の事例共有や自治体窓口の確認事項とも共通している部分です。



◆ 建物構造

□ 入口は宿泊者以外が入れない構造か

□ 鍵の受け渡し方法が明確か

□ 客室までの動線が自然で混在していないか


◆ 設備

□ 録画カメラに死角がないか

□ ロックシステムが個別管理できるか

□ 緊急時の対応ルートが確保されているか


◆ 運営

□ 駆け付け体制は条例を満たすか

□ 周辺環境に対する対策があるか

□ 夜間のトラブル抑制策が明確か




■ まとめ(後編)




無人チェックインの普及により、

旅館業許可は以前より“柔らかく”なったと思われがちです。



しかし実際のところ、

厚生労働省の公表資料や自治体の上乗せ条例を見れば、

運営の自由度と引き換えに

建物側の要件はより厳密になっている

と言えます。



無人化は、

「人を置かない」ではなく、

「建物そのものが安全性を担保する」

という方向へのシフトです。



これを踏まえて計画すれば、

用途変更を含む小規模宿泊施設でも

十分に競争力のある運営が可能になります。



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