2025年4月から旅館業法が改正され、
「フロント常駐が必須ではなくなる」という流れが広がっています。
この話だけ聞くと
「無人運営が簡単になる」
と受け取られがちですが、実際はまったく逆で、
建物側に求められる“構造条件”はむしろ厳しくなっています。
厚生労働省が公表した資料の中でも、
本人確認の方法や宿泊者専用エリアの管理については
従来以上に細かな注意が示されています。
この記事ではまず、
“なぜ無人チェックインが増えたのか”
“どの点が誤解されやすいのか”
そこを丁寧に整理してお伝えします。
後編では、これらの状況を踏まえたうえで、
実際に許可を取得するために必要な建物側のポイント をまとめます。
2025年4月施行の改正では、
フロント業務に関する要件が大きく変わります。
厚生労働省の発表では、
「本人確認は対面に限定しない」ことが新たに明記され、
自動チェックイン機を利用した
映像録画+照合システムによる確認が認められました。
しかし、これは
“人がいらなくなる”という意味ではありません。
むしろ無人化にする場合は、
宿泊者以外が入れない構造を明確に作り、
防犯・安全・入退室管理を“建物そのもの”で担保する必要があります。
つまり、建築・設計・運営が
ひとつの線でつながっていなければ許可が下りません。
背景には複数の理由があります。
● 人手不足
宿泊業界全体でスタッフ不足が続き、
「対面フロントの維持」が難しくなってきました。
● 技術の普及
顔認証機能やスマートロックが普及し、
設備投資の金額も以前より下がっています。
● 行政手続きの変化
厚生労働省の資料にもあるように、
本人確認方法と入退室管理の要件が見直されたことで、
“対面フロントを置かない”選択肢が現実的になりました。
しかし、これと同時に、
自治体ごとの条例が以前より厳しくなっている
という事実には注意が必要です。
無人化=自由化
ではなく、
無人化=構造要件が増える
これが2025年以降の本当の姿です。
私がこれまで用途変更や宿泊施設の計画に携わってきた中で、
特に多い誤解をいくつか挙げておきます。
● 落とし穴①
自動チェックイン機を置けば許可が取れると思われている
実際は、
・録画の保存
・照合の方法
・宿泊者専用エリアとの境界
・鍵の発行方法
これらが曖昧だと保健所で差し戻しになります。
● 落とし穴②
鍵の受け渡し構造を軽く見られている
これは監督官庁が非常に重視している部分です。
暗証番号による入室を認める場合でも、
“外部者が入れない構造”が前提になります。
● 落とし穴③
動線の混在を軽く考えてしまう
用途変更が絡む案件では特に多い誤解です。
宿泊者以外の動き(住居者・店舗利用者・管理人など)が
どこで交わるかによって、
許可の合否が変わってきます。
● 落とし穴④
自治体の条例を確認していない
厚労省の緩和はあくまで国レベルの話で、
自治体ごとに
「10分以内の駆け付け体制」
「無人化の場合の監視強化」
などの“上乗せ条件”を定めている地域は非常に多い。
ここを読み違えると、
計画そのものが頓挫することがあります。
行政書士団体の報告や、
自治体の相談窓口でも共有されている大きな問題があります。
それは、
設備を入れただけで無人チェックインが成り立つ
と思われている案件が急増している
という点です。
実際は、
「設備」
「建物の構造」
「動線」
「運営体制」
この4つが揃って初めて許可のラインに届きます。
これらのいずれかが欠けると、
差し戻しや追加工事につながり、
結果として予定よりも費用が膨らむケースも少なくありません。
無人化の流れが進む中、
2025年の改正は大きな追い風である一方、
建物のつくり方次第で許可の合否が決まる
という側面がさらに強まりました。
後編では、
ここまでの流れを踏まえたうえで、
実際に許可を取るために必要な建物側の条件、
そして現場で押さえるべきポイントを整理していきます。