「既存の建物を活用して、旅館や簡易宿所を始めたい」—その夢を実現するための第一歩が「用途変更申請」です。
法改正により一部手続きは緩和されたものの、特に図面や専門知識が必要な場面で「狭き門だ」と感じる事業者が多いの
が実情です。
この記事では、旅館業への用途変更に必要な法規制、具体的な申請ステップ、そしてつまずきやすいポイントを解説しま
す。
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第1章 🏗️ 用途変更の対象となる建物とは?「200㎡」の壁
建築基準法では、不特定多数の人が利用するホテルや旅館は「特殊建築物」に分類されます。用途変更の際には、この
「特殊建築物」の基準に適合させることが最大の課題となります。
1. 建築確認申請が必要な面積基準の緩和
2019年6月の法改正により、用途変更の際の「建築確認申請」が必要となる床面積の基準が緩和されました。
改正前: 100㎡を超える場合、建築確認申請が必要でした。
改正後: 200㎡を超える場合のみ、建築確認申請が必要です。
これにより、200㎡以下の小規模な施設は、行政機関への申請手続きの負担が軽減されました。
2. 緩和の裏にある「法適合の義務」
重要なのは、申請手続きが不要になっただけで、建物が現行の建築基準法、消防法などの法令に適合させる義務は一切免
除されていないという点です。
200㎡以下の建物でも、建築基準法上の**特殊建築物としての基準(防火、避難、換気など)**を満たす必要がありま
す。
この「申請は不要だが、法適合は必須」という確認作業が、図面がない場合や既存不適格がある場合に、専門家を必要と
する最大の理由となっています。
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第2章 🚨 申請の前に!満たすべき3つの重要法令
旅館業の開業には、主に以下の3つの法令・行政機関の基準をクリアする必要があります。これらが連動しているため、ど
れか一つでも欠けると許可は下りません。
満たすべき重要法令とチェック項目
1. 旅館業法(所管:保健所)
主なチェック項目: 衛生管理、客室面積(最低基準)、帳場の設置、構造・設備基準。
2. 消防法(所管:消防署)
主なチェック項目: 消防設備(自火報、誘導灯、消火器など)、避難経路の確保、防炎物品の使用。
3. 建築基準法(所管:建築指導課または指定検査機関)
主なチェック項目: 特殊建築物としての安全性(防火区画、避難階段、換気・採光)、構造の安全性。
特に建築基準法と消防法は、既存の住宅や事務所から旅館への用途が変わることで要求される基準が格段に厳しくなるた
め、図面の変更や大規模な改修が必要になることが多く、「図面で困る」という声の主要因です。
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第3章 📄 用途変更申請・許可取得の具体的なステップ
用途変更と旅館業の許可取得は、以下のような手順で進めるのが一般的です。
Step 1. 事前相談と専門家の選定(初期段階)
物件選定と同時に専門家へ相談: 旅館業の用途変更に詳しい一級建築士や行政書士に、物件購入前または計画初期の段階で
相談します。
行政への事前相談: 物件所在地の保健所(旅館業法)、消防署(消防法)、建築指導課(建築基準法)に、図面を持参して
事前相談を行います。ここで、法適合のために必要な改修内容の概略を把握します。
Step 2. 設計・図面作成と改修計画
現状把握: 既存図面がない場合は、現地の詳細な測量と図面化が必要です。
法適合のための設計変更: 特殊建築物の基準(防火区画、避難経路の確保、竪穴区画、換気設備など)を満たすための改修
設計を行います。この図面作成こそが、専門知識が必要とされる最も困難な部分です。
工事の実施: 設計図面に基づき、法適合に必要な改修工事を実施します。
Step 3. 建築関係の申請手続き
建物の床面積に応じた申請が必要です。
200㎡超の建物の場合: 建築確認申請が必要です。(提出先:建築指導課または指定検査機関)
200㎡以下の建物の場合: 計画変更届やその他の確認が必要となります。(提出先:建築指導課。自治体により異なる)
Step 4. 完了検査と旅館業許可申請
工事完了: 改修工事が完了したら、消防署による消防検査を受けます。
建築完了検査(200㎡超の場合): 建築確認申請を行った場合、完了検査を受け、検査済証を交付してもらいます。
旅館業許可申請: すべての法適合が完了した後、保健所に正式な旅館業許可申請を行います。保健所の実地検査を経て、問
題がなければ旅館業の営業許可証が交付されます。
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第4章 🔑 図面で困らないためのチェックリスト
用途変更でつまずきやすい、特に図面上で重要なチェックポイントを挙げます。
図面の有無と信頼性: 既存の検査済証や建築当時の図面があるか。ない場合は、実測図の作成が必要です。
竪穴区画: 階段やエレベーターの吹き抜け部分(竪穴)に、延焼を防ぐための区画(耐火・防火)が適切に設けられている
か。
避難経路: 旅館として定められた幅員(幅)の避難階段が確保されているか、また、客室から屋外への避難経路が明確か。
換気・採光: 客室の換気設備や採光面積が、建築基準法で定められた基準を満たしているか。
内装制限: 壁や天井の仕上げ材が、難燃・準不燃・不燃といった内装制限の規定を満たしているか。
用途変更の成功は、物件の選定段階で、これらの法規制をクリアできるかどうかの見極めにかかっています。
まとめ:用途変更の成功は「プロの選定」にかかっている
旅館業への用途変更は、単なるリフォームではありません。3つの主要な法令をクリアし、特殊建築物としての安全基準を
満たす高度な設計と行政手続きが必要です。
これから事業を始める方がこれらの複雑な手続きを一人で進めるのは、時間的にも精神的にも大きな負担となり得ます。
用途変更を成功させる鍵は、「旅館業に特化した経験豊富な建築士や専門家を、計画の初期段階でパートナーに選ぶこ
と」に尽きます。
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