「この柱、邪魔だな。抜けば広くなるのに」
その気持ちは、とてもよく分かります。
間取り図は線で描かれていますし、無料の間取りソフトは“線を消すと空間が広がるように見える”仕組みになっています。
でも──ここだけは、やんわり言いますね。
その柱、家の重さを受けている“力の通り道”かもしれません。
家は棒で持っているわけではありません。
2階・屋根・揺れ・風・地震。
そういった“力”の流れを、見えない部分で受け止めています。
柱は、その“通過点”になっている場合があります。
そして、見た目では分かりません。
私は大工として40年、一級建築士として30年、数えきれない現場を歩きました。
その中で何度も聞いた言葉が
「これ一本抜いたら、めっちゃ広くなるのに」
です。
だけどその柱が、もし力の通り道なら
それ一本を“消す”判断は、家全体のバランスを壊す危険があります。
実は、先週も似た相談がありました。
軽量鉄骨の家と、2×4(ツーバイフォー)住宅の間取り変更相談です。
この2つは、見た目の棒で支えているわけではありません。
鉄骨はフレームの結節点で支え、
2×4は“面”で力を受けます。
この構造の違いを知らないまま画面で線を消してしまうと、
その「消えた線」に、実は家の命が乗っていた…ということが起きる。
私はどうしてもというケースで、
鉄骨の枠を新しく組んで“先に支え”をつくってから開口を広げた経験があります。
あれは“抜いた”のではなく
抜いても良いように、別の支えを先につくったんです。
これが現実です。
だから、無料ソフトで方向性やイメージを作るのは大賛成です。
とても良いことです。
けれど、柱を抜くかどうかの判断だけは
“画面”ではなく“現物”でやってください。
無料ソフトは手段。
判断は現場。
この順番を守ると、中古住宅のリフォームは一気に賢い選択になります。
逆にここを飛ばすと、最後ではなく“最初の思い込み”から、無駄な工事が発生します。
やんわりですが、はっきり言います。
柱は、線ではありません。力の通り道です。
もし、その通り道を一度抜いてしまったら?
あなたの暮らしと家の安全は、誰が受け止めるでしょうか。
まずは方向を描く。
その次は、構造を確認する。
このたった一手で、未来の失敗は防げます。
「この柱、邪魔だからとっちゃおう〜」
そう思った瞬間だけ、そっと手を止めてください。
その柱が、あなたの家を守っている支点かもしれないからです。