柱を抜いても大丈夫?|その判断が一番危ない理由

2025年11月06日 18:26
カテゴリ: コラム

“線”ではなく“力”で立っている家。無料ソフトでは分からない「支えの正体」とは?




「この柱、邪魔だな。抜けば広くなるのに」

その気持ちは、とてもよく分かります。

間取り図は線で描かれていますし、無料の間取りソフトは“線を消すと空間が広がるように見える”仕組みになっています。

でも──ここだけは、やんわり言いますね。

その柱、家の重さを受けている“力の通り道”かもしれません。



家は棒で持っているわけではありません。

2階・屋根・揺れ・風・地震。

そういった“力”の流れを、見えない部分で受け止めています。

柱は、その“通過点”になっている場合があります。


そして、見た目では分かりません。



私は大工として40年、一級建築士として30年、数えきれない現場を歩きました。

その中で何度も聞いた言葉が


「これ一本抜いたら、めっちゃ広くなるのに」


です。

だけどその柱が、もし力の通り道なら

それ一本を“消す”判断は、家全体のバランスを壊す危険があります。



実は、先週も似た相談がありました。

軽量鉄骨の家と、2×4(ツーバイフォー)住宅の間取り変更相談です。

この2つは、見た目の棒で支えているわけではありません。

鉄骨はフレームの結節点で支え、

2×4は“面”で力を受けます。

この構造の違いを知らないまま画面で線を消してしまうと、

その「消えた線」に、実は家の命が乗っていた…ということが起きる。



私はどうしてもというケースで、

鉄骨の枠を新しく組んで“先に支え”をつくってから開口を広げた経験があります。

あれは“抜いた”のではなく

抜いても良いように、別の支えを先につくったんです。

これが現実です。



だから、無料ソフトで方向性やイメージを作るのは大賛成です。

とても良いことです。

けれど、柱を抜くかどうかの判断だけは

“画面”ではなく“現物”でやってください。



無料ソフトは手段。

判断は現場。



この順番を守ると、中古住宅のリフォームは一気に賢い選択になります。

逆にここを飛ばすと、最後ではなく“最初の思い込み”から、無駄な工事が発生します。



やんわりですが、はっきり言います。

柱は、線ではありません。力の通り道です。

もし、その通り道を一度抜いてしまったら?

あなたの暮らしと家の安全は、誰が受け止めるでしょうか。



まずは方向を描く。

その次は、構造を確認する。

このたった一手で、未来の失敗は防げます。



「この柱、邪魔だからとっちゃおう〜」

そう思った瞬間だけ、そっと手を止めてください。

その柱が、あなたの家を守っている支点かもしれないからです。


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