大阪万博後、日本の旅館業は再構築を迫られる──数字が示す宿泊動線の再設計

2025年10月23日 01:34



2024年、日本を訪れた外国人観光客は3,687万人。観光消費額は8.1兆円

を超えました。

数字だけを見ると、日本の観光業は完全に回復したように見えます。

しかし、その裏では確実に「旅の形」が変わり始めています。



これまで多くの観光客が「大阪を起点に、京都・奈良・神戸を巡る」流れ

を選んでいました。

けれど今では、点と点を結ぶ“直行型の旅”が主流に変わりつつあります。

そして、2025年の大阪万博はその変化を加速させるきっかけになります。



この変化は一時的な流行ではありません。

万博が終わったあと、全国の宿泊業がどのように対応するかによって、

これから10年の生存構造が決まるといっても過言ではありません。

1. 数字が示す「大阪起点」観光の変化



観光庁の統計によると、2019年の関西国際空港の国際線旅客シェアは32%。

しかし2024年には24%まで下がり、新千歳・那覇・中部など地方空港の利用が34%増えています。



この数字は、観光客が「大阪を経由しなくても日本を巡れる」ようになったことを意味します。



かつては大阪を中心に関西全体の観光が成り立っていましたが、

LCCの普及と地方直行便の増加により、観光ルートの“中心”は分散しています。



その結果、奈良や神戸では外国人宿泊者数が2019年比で25〜30%減少。

京都も平均滞在日数が0.9日短くなりました。

いずれも、「大阪ついで観光」が減少している証拠です。


2. 万博がもたらす「観光地図の再配列」



大阪万博は短期的に多くの人を集めますが、本当の注目点は「終わったあと」です。

イベントの終了後、人の流れが全国的に再編されることが予想されます。



特に、以下の3つの要素が大きな影響を与えます。



*移動の自由化

  LCCや地方空港の直結便が増え、観光客は「どこからでも入国」できるようになりました。


*検索アルゴリズムの変化

  旅行サイトでは、「大阪から行ける場所」よりも、「どんな時間を過ごせる宿か」で検索される傾向が強まっています。

*旅の目的の変化

  「どこへ行くか」ではなく、「どんな体験をするか」。

   観光の主語が“場所”から“時間の質”へと変わりました。



この流れを理解せずに従来の集客構造を続けると、万博終了後の反動で失速するリスクがあります。

3. 滞在の重心が変わる──“面”から“点”へ




観光庁の調査では、訪日客の平均滞在日数は6.9日から5.8日へと短縮。

一方で、訪問都市数は2.8都市から3.9都市へ増加しています。



つまり、長く1カ所に滞在するよりも、短く多く巡るスタイルに変化しているのです。



この変化は宿泊業にとって脅威ではなく、むしろチャンスです。

なぜなら、旅の“通過点”として選ばれる宿こそが、

次の時代の主役になるからです。

4. 宿が進むべき方向──3つの設計軸



宿泊業がこの変化に対応するための方向は、

「分岐」「前後泊」「余韻設計」の3つに整理できます。



分岐型(トランジット・ステイ)



移動の途中で泊まる「経由の宿」。

大阪⇄北海道、関空⇄沖縄といった点間移動の中継地にある宿は、

レイトIN・アーリーOUTやToGo朝食の設計が重要です。



求められているのは価格ではなく“時間効率”。

導線を整えるだけでレビュー評価が安定し、稼働率も上がります。



前後泊型(整える宿)


帰国前夜や翌朝便の利用者が増えています。

この層が求めるのは、「静けさ」と「安心して出発できる朝」。



出発時間ごとのサポートを用意したり、夜は照明と音を落とす時間を設定するなど、

時間設計を工夫することで“整える宿”になります。



余韻型(地域とつながる宿)


宿が地域イベントや物産と連携すると、平均客単価が8〜15%上がるという調査もあります。

奈良の夜間拝観や和歌山の発酵文化など、地域の体験を組み込むことで、

宿そのものが「地域の編集者」としての役割を果たせます。

5. 値下げではなく、導線設計で選ばれる時代へ



宿泊予約サイトのアルゴリズムは、「価格順」から「利便性順」に変化しています。

「安い宿」ではなく、「到着から出発まで迷わず快適に過ごせる宿」が上位に表示されます。



つまり、SEO対策とは文章ではなく導線の設計です。



夜の写真・朝の写真・移動のQR案内。

この3点を整えるだけで、レビュー語に「静か」「便利」「迷わず」が自然に増えます。



宿の魅力は装飾や広告ではなく、

“過ごし方の設計”で伝わる時代に入りました。

6. 地方宿こそ、万博の余韻を拾う



万博が終わったあと、観光需要が急減するとは限りません。

観光庁の想定でも、翌年は横ばい〜微増。



これは、イベント目的から旅目的へとシフトする層が一定数いることを意味します。



万博の熱を感じた旅行者が「次は静かな場所へ行きたい」と思ったとき、

その目的地になれるのは地方の宿です。



地元イベント・季節の催し・地域文化を少しずつ発信しておくことで、

「次はこの宿に行ってみたい」という流れを生み出せます。

7. 90日で整える宿の導線



1〜2週目:宿泊データを整理し、チェックイン・アウト時刻と移動先を分析。

3〜4週目:夜・朝・移動を意識した写真を更新し、予約ページにQR案内を設置。

5〜6週目:地域イベントや物販業者と連携し、限定体験をひとつ作る。

7〜8週目:3種類のプラン(分岐/前後泊/余韻)を試験販売。

9〜12週目:レビュー語の出現率と直販比率をチェックし、改善サイクルを回す。



数字で動線を追い、改善を可視化していくことが最も確実な手段です。


結論:数字が導く、これからの宿のあり方




大阪万博は、一つのイベントではなく“構造変化の起点”です。

大阪を中心とした巻き込み観光の時代は終わり、

点と点をつなぐ旅の中で、宿が担う役割は大きく変わります。



これからの宿に求められるのは、

「滞在」ではなく「導線の設計」です。



数字は嘘をつきません。

そして、導線を描ける人だけが、次の10年を作る事ができるのです


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